かれこれ15年以上前の、当時の総務部長様との会話です。
まだまだ某出版社に在籍していた時なのですが、手書きの事務処理をコンピュータ化するという有難くもない任務を任され、莫大な量のデータ入力を繰り返す日々でした。
日中は、取引業者さんたちとの商談がびっしり入っておりましたので、作業は必然的に夕方以降。
メインは夜だったのでございます。
出版社では、用紙担当者をしておったのでありますが、使用していた用紙はおよそ3000種類。
用紙1点、1点の戸籍のようなものを作成していく作業なのですが、入力は基本的に1人です。
出版社の営業部門では、毎日仕事で「午前様」なんてほとんど聞かないのですが、わたくしの場合は、ひたすら事務処理で毎日、毎日朝帰り。
3ヶ月くらいでしたが、そんな日々が続いておりました。
警備員さんたちとも顔見知りになっちゃうし、夜食を食べに行く近所のファミレスの店員さんからも、「お疲れさまです、今日もお仕事大変ですね」、とか言われちゃうし。
まぁ、30歳の時でしたけど、今やれと言われても絶対に無理ですね。
徹夜して、タクシーで帰って、シャワーを浴びて、スーツを替えるだけして出勤。
で、朝からフツーに働いて、また翌日の夜中にタクシーで帰宅とか。
もうねぇ、今日が何曜日なのかなんて、まったく持って分からない。
そんなことをしておりましたら、ある日突然、総務部長がわたくしの元にやって参りました。
「田中、話があるんだけどさ」
「先月のお前の残業時間なんだけど、軽く100時間を超えてるんだけど」
「営業部門ではあり得ない数字だぞ」
「考えてくれよ、田中に死なれると、会社として困るんだよ」
「会社として」という部分になぜか違和感を感じたので、咄嗟に言い返したのは、「だったら、人を増やして下さいよ」。
「私1人にやらせておいて、時間がかかり過ぎるなんて言わないで下さいよ」
「どれだけの量のデータを入力しているかご存知ですか?」
「悪いけど、人は増やせない」、「とにかく、死なない程度に頑張ってくれよな」
長時間労働を自慢している訳でも、賞賛している訳でもありません。
精神的に追い込まれるとか、それこそ「過労死」するほど働くなんて、馬鹿げているというスタンスですからね。
異常なくらいの労働時間になってしまうということは、そのシステムが多少なりとも「破綻(はたん)」しているということだと思うのですよ。
その人だけに、負担が掛かっている訳ですから。
長時間労働=正義、偉いとかいう風潮は、まだまだ健在なんですかねぇ?
まったく偉くないですって。
自分の時間、趣味とか、好きなことをする時間まで仕事に取られているとすると、かなり悲しいことだと思うんですけど。
残業した分、すべてがお金になるのならまだいいんですけど、多かれ少なかれ「サービス残業」もあるでしょうしねぇ。
「寝てない」とか「帰ってない」とか、ホントに自慢出来ることじゃないんですよね。
たとえ、それが仕事でもね。
スケージュールが上手く組めていないだけ、という評価もされ兼ねないですし。
あの頃だけには戻りたくない、戻れないというエピソードなんですけど、そもそも日本人てぇ奴は、世界的に見てもやっぱり働き過ぎなんでしょうねぇ。
働き過ぎは好くないですね。
肉体的にも、精神的にも、さまざまな支障を来たしますから。
こんなわたくしも「燃え尽き症候群」で、一時期心療内科のお世話になったくらいですからねぇ。
やっぱり労働時間には限度があるんですよね。
人間は、働くためにだけ生まれてきたんじゃないし。
で、2014年発表のOECDによるランキングなんですけど。
「中学校の教員を対象にした勤務時間調査」という誠に興味深い調査は、週に何時間、教師たちが働いているかを表わしております。
まずは、順位を見て行きましょうか。
1、日本 53.9時間(週)
2、アルバータ州(カナダ) 48.2時間
3、シンガポール 47.6時間
4、イングランド(英国) 45.9時間
5、マレーシア 45.1時間
6、アメリカ 44.8時間
7、ポルトガル 44.7時間
8、オーストラリア 42.7時間
9、スウェーデン 42.4時間
10、デンマーク 40.0時間
世界平均は、38.3時間
以上は、勤務時間の比較なんですけど、他にもいくつか日本と世界との比較データが出ております。
・課外活動 参加国平均 2.1時間 日本 7.7時間
・事務作業 参加国平均 2.9時間 日本 5.5時間
・授業 参加国平均 19.3時間 日本 17.7時間
・授業の計画・準備に充てた時間 参加国平均 7.1時間 日本8.7時間
・研修への参加 日本 86.4%の教師が仕事によって妨げられていると回答 参加国平均 50.6%
・自己評価
「生徒に勉強ができると自信を持たせることができる」と答えた教師 日本 17.6% 参加国平均 85.8%
「勉強にあまり関心を示さない生徒たちに動機づけをすることができる」と答えた教師 日本 21.9% 参加国平均 70.0%
日本の中学校の先生は、なるほど世界で一番忙しいのか。
おそらく部活とか課外活動が多いんでしょうね、残業もかなりしてそうですし。
カルガリーのあるアルバータ州(カナダ)なんですけど、何でこんなに勤務時間が長いのでしょう?
アルバータ州の教師たちはとりわけやる気なのか、もしくはギャラがいいから長時間働いちゃうのか?
ネットで調べてみても、アルバータ州が教育熱心なのは伝わってくるのですが、授業内容は教師の裁量に任されているカナダですから、州ごとにバラつきがあってもおかしくありません。
日本だと、どの先生が教えても授業内容は良い意味で似たり寄ったり。
教科書に沿っていかないとダメでしょうしね。
ところが、トロントで見る限り、同じ教科でも教師によって授業の出来(?)はバッラバラですもんねぇ。
娘の通っておりますミドル・スクールの教師たち。
こんなテーマにするくらいだから、やっぱりそれほど働いていないんでしょう?
読者の皆さま、さすが鋭い!
毎日の授業は、午後3時12分(半端な時間でしょ、アホみたいにね)終了するんですけど、生徒たちが片づけてまだ出て来ていないのに、もう自分のクルマに乗り込む教師もおります。
娘の担任なんかもそうです。
ミドル・スクールへ迎えに行って、ドアの周囲で娘を待っておりますと、別の出口からもう担任が出て来ちゃうなんてザラ。
おいおい、今日のテストの採点なんてしないのかよ?
担任を持ってる教師が、そのクラスのどの生徒よりも早く帰るんですから、よく理解出来ません。
日本だったら、あり得ないでしょう?
「明日はクリニックに予約を入れてありますから休みます」
前日に宣言して、代打の先生が来るんですけど、その先生のことを「サプライ・ティーチャー」とか呼んじゃって、結構カッコいいでしょ。
でも、いざいらっしゃる先生は、すでに定年をしていて暇を持て余しているおじいちゃん、おばあちゃん先生だったりするのです。
で、担当の教師に頼まれた通りに宿題なんぞを出すんですけど、サプライ・ティーチャー自身が内容を十分理解していないので、宿題をどのようにまとめてくれば好いのか?、とか生徒から質問されても、上手く答えられなかったりしてね。
そんなテキトーな引き継ぎの嵐。
教師のほとんどがクルマで通勤して来ているのですが、「成金マッチョ」みたいな教師もいてねぇ。
真っ赤なオープンカーで学校に乗り付けたり。
3台くらいクルマを所有しているようで、とっかえひっかえしてるんですよね。
で、変にマッチョだし。
特に上半身を鍛えているようで、ポロシャツの肩、腕部分なんかは、パッツンパッツンなんですけど、下半身は華奢(きゃしゃ)なので、「総合格闘技」では足を狙われそうですね。
その先生も、帰るのが早いんですよ。
生徒たちの噂によれば、その先生は親から譲り受けた資産がすでにタンマリあるので、もう働く必要がない。
なので、労働への意欲が薄らいでいるということのようです。
それっくらい、すっ飛んで学校から帰ってしまいます。
放課後のクラブ活動なんかも、盛んではないですもんね。
日本では当たり前の「野球部」なんてないですから。
「ソフトボール部」「サッカー部」は辛うじてあるのかな。
それでも、「定期」の部活じゃないですもん。
学校対抗の試合がある時にだけ召集され、数週間活動したら解散するという「不定期」なもの。
基本的には、日本のように毎日、朝とか放課後にやるような部活は存在しません。
とにかく宿題が多いので、それをこなすのが大変ですから。
「定期テスト」なんかじゃなく、なんだかんだ言って「毎週テスト」ですから、予習・復習を常にやっていないと高得点は難しい。
ですから、部活なんてまず無理でね。
公立校であれば「高校受験」なんてのもないし、部活動が受験に活きるとか、そんなこともありません。
なので、中学に進学したらとにかく部活、という日本のノリとは全く違います。
勉強をしない子たちはダラダラしちゃうでしょうし、日常生活における「目標」みたいなものは、トロントの方が見つけづらいかもしれませんね。
「中学校時代に何をやったか?」と振り返っても、「特に、何も」と答えるお子さんたちがほとんどでしょうし。
こうした部活に付き合う日本の教師たちは、そりゃ労働時間が長くなるはずですよね。
日本は、事務作業なんかにも追われているイメージですけど、授業の準備なんかもも完璧にやりそうですから、これでまた労働時間が増えてしまう。
娘の学校の数学の教師なんですけど、「アタシは図形が苦手なので、みんな、自分で勉強して理解してね」とか平気で言っちゃうし。
もうねぇ、教えるのが苦手な箇所を克服しようとか、そういう意欲など皆無です。
教師といえども、苦手なことがあるのは仕方がない。
なんだか、相田みつをさんの「人間だもの」みたいですけど、出来なくたっていいじゃないか、人間だもの、とかね。
でも、教える先生がよく解っていないのはマズいでしょ。
まぁ生徒たちは、教師に頼らないで勉強するようになるかもしれませんので、自主性、自分の身は自分で守るという精神は身に付いたりして。
何とものんきなトロントの教育環境でありますこと。
それにしても、世界と比較しても十分働いているというのに、「自己評価」が低いというのは、日本的と申しましょうか、謙虚な日本人らしいと申しましょうか。
データからは、随分控えめな印象を持ったんですけど、それほど働いていないにもかかわらず、「自信過剰」なガイジン勢もガイジン勢ですね。
「生徒に勉強ができると自信を持たせることができる」の参加国平均が85.8%って、どんだけ自信があるんだよって話で。
それに対して、日本人教師は17.6%ですから、自信がなさ過ぎるというか、弱気なんですかねぇ、一生懸命頑張ってるのに。
日本の教師の皆さん、特にお若い、なりたての先生たちは「挫折」に弱いという話もよく耳にしますよね。
教師になるまで、ほとんど負け知らず。
「先生、先生」と敬われている時はいいんですけど、ひとたび生徒たちが言うことを聞かなくなり、「学級崩壊」なんかになっちゃうと、精神的に立ち直れなくなってしまうケースが多いそうです。
自信喪失して先生そのものをやめてしまうとかね。
先生になる前に一般企業なんかに勤めてみて、先輩社員とかから、「バカ野郎、てめぇ、何やってんだ!」とか、「まったくお前は使えねぇな」とか言われてみた方がいいかも。
いや、ダメだな。
こんなヒドイい言われ方をしたら、やめちゃうかもしれないし。
「田中、お前はホントに使えねぇな」
先輩社員たちから、新人時代に何度言われたことか。
それで、数年後。
わたくしめは心の中で、「結局、あなたの方が、ずっと使えなかったね」とツブやいていたのは言うまでもありません。
こうして克服出来ればいいんですけどねぇ。
ちょっと嫌味な感じになっちゃいましたかね。
別に「恨み」があるという話じゃないんですよ。
決して良い思い出なんかでもないですけど。
日本の教師はやっぱり働き過ぎなんでしょうね。
一所懸命努力しているにもかかわらず自信は少なめ。
現在トロントでは、一部の教師たちの「ストライキ」の影響で、娘が通うミドル・スクールでも、成績表が出せないとか、そんな話になってます。
通常、教師が記入するはずの、教科ごとの細かいコメントがない。
そういう結果のみしか記載されていない成績表が、遅れに遅れて夏休み中に提出されるそうです。
今どき、ストライキなど日本では考えられないでしょう。
そんなことやってんだから、余裕があると申しましょうか、生徒たちのことなど考えていない感じですね。
待遇改善もいいですけど、仕事のボイコットはダメでしょうよ。
ガイジン教師たちのように、ムラだらけ、ストライキも辞さないなんてな働き方は、日本の教育現場では通用しないですね、日本の教師は割に合わない職業なのかしら?、でも熱心な先生たちのお陰で、子供たちも大いに成長出来る訳で、同情するとともに、ひとえに感謝、わたくしには絶対出来ない職業ですな、好きですトロント!


